2月8日、東京都港区の機械振興会館でIOTに関するシンポジウム、『救急・災害時における最先端テクノロジーを活用した「命を救う」~先進事例からみる2020年日本の未来~』が行われた。
シンポジウム概要
主催は一般社団法人救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会(略称:EDAC)。同法人は主に産学官連携で、ドローンをメインにIOTを活用した救急医療・災害対応の実証実験を九州で行っており、総務省のIoTサービス創出支援事業にも採択されている。
そのため今回のシンポジウムは総務省から渋谷闘志彦、片桐広逸両氏、熊本県から内田公彦氏、杏林大学医学部から加藤総一郎、山口芳裕両氏、岐阜大学医学部付属病院から林賢一氏、九州大学から松尾久人氏など各界からその道の専門化が集まり、各分野の事例を交えた現状紹介から、来る2020年東京五輪へ向けての話まで、幅広い内容となった。
シンポジウムで見えてきたキーワード「リテラシー」
シンポジウムは昨年2016年に起きた熊本地震における災害医療の取り組みについて、熊本県医療政策課の内田公彦氏が講演された後、EDACがこれまで行ってきたドローンを活用した実証実験と、同法人の今後のビジョンについての話を本流に、そこに密接に関わってくる医療、IOT、ICT、ビッグデータ、AIなどの、今後更に国を挙げて取り組んでいく分野の話に展開されていった。
その中で、頻繁に出てきた言葉が「リテラシー」。日本語で、『知識およびその利用能力』と訳されるこの言葉は、救急・災害対応時は勿論、これから先の社会を生きていく上でのキーワードとなってくるだろう。
登壇者達は口を揃えたように「IOTは世界規模のインフラ。しかし、日本は各国と比べてIOT、ICTの活用が遅れている。」「医療IOTを発展させるにはリテラシーの底上げが必要。」「ドローンが発展していくには、一般の方のドローンに対するリテラシーをボリュームアップするような動きが必要になってくる。飛行機や救急ヘリと同レベルまで引き上げたい。」「日本には探せばビッグデータは沢山ある。しかし、それはなかなか知られていない。」と述べる。今後、企業も含めた日本社会全体として『知識およびその利用能力』を上げていくことが、最先端テクノロジーの発展を加速させていく上での必要課題となっていきそうだ。
EDACのビジョン
EDACは『命を救う』をテーマに活動を進めている。具体的には、心臓の異変を感知するシャツタイプのウェアラブル端末を着用した人に異常が起きると端末が感知し、自動的に消防へ通報するスマートフォンアプリが作動、GPS情報によってドローンが急患のいる現場へ急行するという、既存の技術を巧みに組み合わせた実証実験を行っている。
また、コースのアップダウンが激しく、死角も多いことで知られるいびがわマラソンでは、救護者の早期発見を可能にすべく、上空からランナーが走るコースをドローンで空撮し、リアルタイムでその映像を救護チームが監視することで参加者の安全管理を行うなど、通報がある前にいち早く要救助者を発見する動きにも力を入れ、少しでも多くの救える命を救う活動をこれから更に進めていく方針だ。
さらに、同法人の稲田理事長は、自身がドローンパイロットということもあり、ドローン専門メディアの運営、ドローンがまだ身近でない人達への研修会やデモフライトでの活用提案など、ドローンへの「リテラシー」を持った人を増やすような活動にも邁進している。業界の裾野を広げていくトップランナーが理事長を務めているというのは、今後EDACの活動を拡大させる最高の武器だ。
今回のシンポジウムで司会を務めた円城寺副理事長は最後に「一時期話題になって気付いたら消えているようなものにはしたくない。荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、2020年東京五輪で救急の際に活躍できるようにしていきたい。」と、今後更に活動を加速させていく方針を示した。
最先端テクノロジーを駆使して救える命を救うという動きは、これから益々注目を集めることになるだろう。しかし、いくら最高の技術でも社会全体のリテラシーが不足していては発展が鈍化してしまう。最も難しい課題かもしれないが、社会全体が最先端テクノロジーを理解しようとしだしたとき、EDACの活動が国民に知れ渡ることになるのだろう。言い換えれば、我々のテクノロジーへの理解が深まるごとに、救える命を救える社会に近づくのかもしれない。
画像転載元:一般社団法人 救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会HPhttp://www.edac.jp/