株式会社日立製作所は、地域社会を支える社会インフラの強靭化に向けて「設備点検 AI プラットフォーム」を開発したことを、2022年6月10日(金)に発表しました。このプラットフォームは、インフラ事業者をはじめ、AI ベンダーなどのベンチャー企業や大学、研究機関といった多種多様なステークホルダーと連携し、優れた技術やノウハウを取り込んでいく、オープン型のプラットフォーム。日立製作所では、複数のインフラ事業者を中心に実証を重ね、地域全体でのインフラ管理の効率化やコスト最適化を目指していくとしています。
目次
インフラ設備点検業務のDX推進に対応するため、効率的なAI の管理・運用を実現するプラットフォームを構築
近年、インフラ設備の高経年化により設備障害のリスクが高まっています。その反面、保守保全・管理に要する人員や予算は限られるため、インフラ品質の維持と効率の向上が一層求められています。特に、日本では少子高齢化による現場作業員の減少が深刻になる一方で、社会生活の高度化が加速しており、インフラへの依存度が高まっています。インフラ維持が人々の生命や財産の維持につながる時代であり、災害時などには、特に限られた作業員で多種多様なインフラ設備の維持や迅速な復旧が求められています。
このような課題を受け、技術革新が急速に進む DX(デジタルトランスフォーメーション) をインフラの設備点検業務に適用することが注目されています。最近では、目視点検をサポートする技術として AI 技術の開発や実証事業が盛んに行われています。橋梁や鉄塔など高所での危険作業を伴うインフラ設備点検の業務では、作業員の安全確保のため、ドローンやロボットにより高所作業を代替し、ドローンなどで撮影した動画を AI で診断するといった、さらなる保守・管理の高度化が求められます。
日立製作所は、こうした状況に対応するため、長年取り組んできた AI 技術の研究開発やインフラシステム構築の実績で培った知見やノウハウを活かし、AI の現場実装から導入後の効率的なシステム維持管理を実現する「設備点検 AI プラットフォーム」を開発しました。
この「設備点検 AI プラットフォーム」により、限られた予算の中で人員の有効活用が課題とされる設備点検業務において、ドローンやロボットなどと連携した AI 画像診断システムを活用し、目視確認など人手の作業に依存していたプロセスを一気通貫で自動化することで、さらなる効率化を実現。また、多種多様な AI システムの導入や、長期稼働が求められることを見据えたAI の管理・運用を効率化するプラットフォーム構成とすることで、システム投資の最適化にも貢献するとしています。
「設備点検 AI プラットフォーム」の機能と特徴について
日立製作所の「設備点検 AI プラットフォーム」の主な機能とその特徴は以下の通りです。
<設備点検のプロセスを一気通貫で自動化>
設備点検で AI を活用するためには、現場で収集した動画データのシステムへのアップロードから、点検動画データの加工処理、画像診断 AI による解析、診断結果の管理などの一連の作業が必要です。「設備点検 AI プラットフォーム」では、一連のプロセスを自動化することで、設備点検作業の効率化と AI 解析の精度向上を実現します。
また、日立開発のドローン運航管理システムと連携する機能を有しており、ドローンで収集した点検動画データを自動アップロードすることが可能となり、データ移行時のデータ消失などのリスクが軽減されることから、データ取得から診断まで、よりセキュアなシステムの実現が可能となっています。
<長期稼働を見据えた投資や AI 管理・運用コストの最適化>
今後 AI の社会実装が進む中で、用途ごとに AI アプリケーションを個別に開発していくと、共通的に利用できる機能が複数存在することとなり、長期稼働でのシステム運用が非効率になる恐れがあります。また、効率化だけでなく、設備点検の現場作業員が利用しやすく、かつシステム管理者が運用しやすい AI システムの構築も求められています。
「設備点検 AI プラットフォーム」は、点検動画データからの静止画生成、画像選別や画像加工など、診断対象設備に依存せず共通的に利用可能な「共通機能層(画像処理、画像分類、画像加工相当)」と、設備ごとに異常診断するためのAI など「個別機能層(異常診断相当)」で構成されています。日立製作所が共通的に利用可能な機能をコンポーネント化し提供することで、多重開発を回避し、インフラ事業者のシステムへの最適投資や、使いやすく効率的な運用管理の実現に繋げます。
<オープンかつ継続進化するプラットフォーム>
「設備点検 AI プラットフォーム」は、よりオープンなシステム構成となっており、他事業者の AI との接続を容易に行うことが可能です。AI ベンダーや DX に関連するベンチャー企業などが参画することで、インフラ事業者にとってより高度な技術を取り入れることができるようになり、プラットフォーム自体も継続進化していきます。日立製作所では、こうした継続進化が繰り返されることにより、インフラ保守の品質や管理効率を持続的に向上し、社会インフラ全体の強靭化を図っていくとしています。
オープンイノベーションの枠組みを活用し、持続可能な協創プラットフォーム化を狙う
日立製作所は、DXをはじめとした想定外の事態や社会の大きな変化に対応し、社会課題の解決を図るため、データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現する社会イノベーション事業を推進しており、IT や OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用する「Lumada ソリューション」を提供しています。
その一つとして、2020年11月からは、社会価値、環境価値、経済価値およびQoL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に向けたオープンイノベーションを加速する相互パートナー制度「Lumadaアライアンスプログラム」をグローバルで開始。「誰もが暮らしやすいまちづくり」「持続可能な社会を支えるエネルギー」「需要・供給のムダのないロジスティクス」などのテーマに取り組むパートナーに、自社が培ってきたデータ活用やデジタルの技術・ノウハウ・ソリューションを提供するとともに、課題解決に向けたデジタルソリューションやグローバル展開力、技術サポート力などの様々な強みを持つ様々なパートナーと、業界を越えた技術・ノウハウ・アイデアを共有・活用することで、価値創出を連鎖、循環させるエコシステムを作り上げようとしています。
今回の「設備点検 AI プラットフォーム」においても、「Lumada アライアンスプログラム」をはじめとした社内外のオープンイノベーションの枠組みを活用し、共通的な課題意識を持つ地域企業や金融機関、自治体などとも連携、地域社会を支える社会インフラの維持に向けて、取り組みを強化していくとしています。さらには、様々なステークホルダーからの知見や技術を集約することで、「設備点検 AI プラットフォーム」を持続可能なプラットフォームとして進化させ、多様な協創による継続的な価値拡充を通じて、社会インフラの強靭化を支えるイノベーション創出の一助とするとしています。
*<Lumadaとは>
“Illuminate(照らす・解明する・輝かせる)“と“Data(データ)“を組み合わせた日立製作所の造語。さまざまな事業領域の取引先のデータに光をあて、輝かせることで、新たな知見を引き出し、その経営課題の解決や事業の成長に貢献していく、という思いが込められている。