沖電気工業、ドローンの目視外飛行の安全性確保を目指した実証実験を実施

沖電気工業株式会社は国立大学法人室蘭工業大学、株式会社日立国際電気と共同で、都市部でのドローンの安全飛行を実現するための電波干渉回避技術の実証実験を1月21日より2月26日まで実施した。実験の結果、飛行中のドローンにおいて、地上からの電波発射の方向を高い精度で推定できることが確認された。

本実証実験は都市部での地上からのさまざまな電波に干渉されずに、ドローンを直接肉眼による目視ができない範囲で飛行させることを目指すもので、沖電気工業株式会社、室蘭工業大学、日立国際電気が共同で受託した総務省研究課題「無人航空機の目視外飛行における周波数の有効利用技術の研究開発」の技術課題ア「小型無人航空機における他業務の電波等からの混信・干渉回避のための電波利用技術の研究開発」の一環として実施されたもの。

防災やインフラの維持管理、物流などの用途でドローンなどの小型無人航空機の普及が加速するなか、都市部上空など有人地帯における無人での安全飛行が課題とされている。政府では「レベル4」と呼ばれる都市部での目視外飛行を2022年度に解禁する方針を表明しており、解禁に先駆けて都心部で実証実験をして課題を洗い出すことで、早期の実用化につなげたいとしている。そのため有人地帯での目視外飛行による小型無人航空機の安全な利用の取り組みが官民一体となって進められている。

例えば東京都では、ドローン物流プロジェクトの公募において、日本航空株式会社・東日本旅客鉄道株式会社・KDDI株式会社・Terra Drone(テラドローン)株式会社・株式会社ウェザーニューズの5社によるプロジェクトを採択し、2020年8月から2022年3月にかけて「緊急時や災害時を想定して医薬卸企業の配送拠点から医療機関に医療用医薬品をドローンで輸送する」「駅近隣の飲食店から周辺のオフィスに料理をドローンで配送する」「駅周辺の施設をドローンで巡回警備する」という3つの実証実験を進めている。2021年度は東京都内の湾岸エリアや都心部の駅周辺で実証実験に取り組む予定だ。

ドローンの遠隔操作や、ドローンからの画像・データ伝送には電波が利用されている。そのため、電波法について理解した上で飛行させなければならない。ドローンが使用する無線の周波数帯は、2.4ギガヘルツ帯、920メガヘルツ帯、5.8ギガヘルツ帯の3つで、2.4ギガヘルツ、920メガヘルツを使用しているドローンは、技適マークさえあれば、免許(無線の資格)が不要。現在市販されているドローンは、無線局免許を必要としないWi-Fi機器等が用いられているものが多いが、より高画質で長距離の映像伝送等、電波利用の高度化・多様化に関するニーズが高まっている。

一方で、小型無人航空機が利用する電波の同一帯域および隣接帯域にはさまざまな電波利用が混在しており、飛行中の小型無人航空機に対し、さまざまな電波による混信・干渉が発生し、安全な飛行ができない可能性がある。例えば、他のドローンや無線通信を行う無線局、高圧送電線からの放電による障害、鉄道や工場などのからの妨害電波による混信障害、ビルなどの大規模建築物や鉄道、道路などの高架構造物による電波の遮蔽による障害、反射によるゴーストや、列車の走行によるフラッター、森による減衰、などが挙げられる。特にスマートフォンやタブレットなど様々な端末におる通信が溢れかえっている都市部においては、電波の混雑が原因で起こるスループットの低下や、同一の送信機から発信された電波が受信機側に複数届いてしまうことによって起きるマルチパスなどの可能性が高く、正しい電波の送受信を行うための障害が多くあります。

今回の研究開発は、都市部の上空で使用される周波数帯の電波環境をモデル化することで、有人地帯で小型無人航空機を安全に運用するための電波利用の指針策定に役立てるとともに、干渉リスクを検知・回避する技術を開発することで、周波数の効率的な利用を促進するために行われている。

沖電気工業株式会社では、これまでも空中音響技術を利用して飛来するドローンを探知する「ドローン探知システム」を2015年に開発し、ドローンの急速な普及にともない増大した映像制作、災害地調査、インフラ老朽化点検、物資輸送などサービスへの利活用だけでなく、盗撮・盗聴、落下による器物破損などの事故や、毒物散布などドローンの悪用による脅威に対する防衛策も提供してきた。また2019年には、東日本旅客鉄道株式会社、FPV Robotics株式会社と共同で空飛ぶ水中測深装置「ドローン搭載型MNB(multi narrow beam)測深機」による、河床状況調査の作業効率化・安全性向上に関する実証実験を実施している。

こちらは、OKIグループの関係会社OKIシーテックの可搬ボート型マルチビーム測深機「CARPHIN V(カーフィン ブイ)」の測深装置部・測定場所への移動手段となるドローンの活用を検討するもので、小型・軽量な無人船体に測深装置部を一体化した「CARPHIN V」での測深装置部をさらに小型化し、水空両用ドローンと一体化することで、調査対象場所へのアプローチから着水、測定対象範囲の水上航行と測深、離水、着陸までの一連のプロセスを、遠隔操作または自動制御できるようにし、橋脚付近の河床状況調査での作業効率化と安全性の向上を実現させたもの。沖電気工業株式会社は、このドローン搭載型MNB測深機を「CARPHIN air(カーフィン エア)」として販売に向けた製品化を進めている。

沖電気工業株式会社は本研究開発の今年度の活動として、小型無人航空機が利用する電波の到来方向を、飛行中のドローンから動的に精度よく推定する「電波環境の動的空間検知技術」を開発し、これを用いた無線装置を試作。今回の実証実験では、この無線装置をドローンに搭載し、テストコースにて、「インフラ構造物(橋りょうなど)の維持管理にドローンを利用している」という想定で行われた。無線装置を搭載したドローンを、約5メートル上空を飛行させて検証した結果、地上からの電波発射に対し、その到来方向を高い精度で推定できることが確認された。またドローンの揺れなどによる姿勢の変化にも追従できていることも確認された。

今後は今回の実証実験の結果に基づき、今後ドローンの使用電波が他のシステムに干渉を与えないように制御し、かつドローンとコントローラーの間の通信を正常に行うため動的に電波放出の指向性を成形するビームフォーミング技術*の開発、無線装置の小型化、低消費電力化を進めていくとしている。 *ビームフォーミング技術:無指向にも飛んでいる波(電波、音波、超音波など)を細く絞って指向性を高め、特定の方向に向けて集中的に送信、または特定の方向から受信する技術。この技術を使うことで、電波を送信する装置と受信する端末との間での電波干渉を減らし、より遠くまで電波を届けられるようになる。原理としては、電波が同じ位相の波同士をかけあわせると強められ、逆位相の波をかけあわせると打ち消されたりできるという波の性質波の性質を持っていることを利用している。電波も、複数のアンテナから電波を出すことで、その電波が強く受信できたり、逆に受信できなかったりという地点が出てくる。これを利用し、アンテナから送信される電波の電力や位相などの要素を調整することで、特定の地点でのみ電波感度が最適化されるようコントロールを実現する。

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