農薬散布用ドローンの開発・販売を手がける中国の「広州極飛科技有限公司(以下XAIRCRAFT)」は、以前公開したドローン等の新技術を活用した農業に関する人材育成プラン「30万人農業人材育成計画」を始動させたことを発表した。
政府も支援する農業の近代化
中国共産党と国務院が発表した「2021年中央一号文件」(※1)の中には、農村地域は農業による地域振興を全面的に推進するという戦略を明かし、「十四五計画(国家が定めた5か年計画の14回目)」にも農業関連の政策が組み込まれた。そして2021年3月、中華人民共和国農業農村部が正式に農業用ドローンを農機補助金制度の対象に加え、農村地域振興戦略の実施や近代化を推進するために科学技術での支援する意向を発表した。こうしたことから、財政政策として中国は農業に関わる科学技術の普及と農業近代化の発展に注力していることが分かる。
※1 中国共産党が政策決定を文書化したもの。一号はその1年に初めて発表された内容
農業における改革の背景には、コロナウイルス感染症の流行による食料市場の不確実性が世界中に影響を与えていることが挙げられる。農産物の品質と生産効率をいかに向上させるかが検討すべき課題となっており、自動化・AI化によって大きな改善が見込まれている。
XAIRCRAFTの取り組み
農業の自動化・AI化を実現するためには、「技術」と「人材」が欠かせない。スマート農業のリーディングカンパニーであるXAIRCRAFTは新たな動きをみせた。同社はこれまでも国家の要請に積極的に対応し、時代に順応したスマート農機具の開発・販売をしており、新技術の開発に積極的に携わってきた。農村活性化戦略の指導方針に沿って「30万人の農業人材育成計画」を発表し、農村地域に集中している「労働力」を「人材」に育てあげることを目指している。将来には農業の知識や経営を知り、農業を愛する”農業のプロフェショナル”として地域での活躍が期待されている。
XAIRCRAFTの共同創業者であるゴン・カチン氏によると今回の人材育成の主要な対象者は、一定の事業規模のある農家、自家農園主、農村合同会社、農業資材業者、Uターン農業従事希望者であることを述べた。彼らは農村の地域振興にとって大事な存在であり大きな影響を与えることから、彼らの職業訓練やスキルアップへの需要は高まっている。
農業従事者が抱える課題
従来の農業資材業者は長年地域に根付くことで成り立っていたケースが多いが、現在ではマーケティングに弱い業者は経営が上手くいかない。理由は商品が同質化しており、農業従事者は仲介業者を通さずにメーカーと直接取引してしまうからだ。また農業資材業者に衝撃を与えたのは農業物資のオンライン販売である。
そこで多くの業者は商品とアフターサービスを組み合わせる販売方法に切り替えたいと考えている。最新の農業生産管理システムを使って田畑の管理や農業従事者へのサービスを提供し収益を上げ、また評判を上げたい。しかし現在は人手不足が深刻で、実現できていないのが実情だ。近年、農薬・肥料の削減政策により、多くの農業資材業者が経営難に陥っており、また従来の農業従事者は生産性の低下とコストの高騰に苦しんでいる。
「30万人の新農業者人材育成計画」はスマート農業、ビジネスモデル開発、ドローンを使った害虫対策、種まきのAI化など、様々な分野における人材の育成に貢献する。 また”商品+サービス”という新しい概念で従来のビジネスモデルを進化させ、科学技術に沿った新サービス作りの経営理念を伝えていく。農業用ドローン、リモートセンシング用ドローン、農業用無人車、農業IT、農業用自動運転システム、スマート農業エコシステムなどスマート農業に切り替えることで、経営とサービスの質を高めることが狙いだ。
人材育成計画の職業訓練を受ける新規農業従事者は最先端のスマート農機の操縦技術を習得することで、従来のように田畑に直接入る必要が無くなるなど、効率の低い重労働から解放される。農家や農村合同会社はスマート農機を使うことによって、労働力不足や人件費の高騰などの課題解決だけでなく、土地をより広く活用できることによって収益を向上させることができる。農産業を発展させることは、国家の食料安定供給に大きく貢献することになる。
農業従事者によるビジネス展開事例
安徽省阜陽市太和県にある顺祥農機専門合同会社のオウ・シュンリさんは元々トラクターのドライバーでしたが、2年前にXAIRCRAFTの育成計画に参加し、農業用ドローンのオペレーターへキャリアアップした。その後、トラクターより農業用ドローンを使って農薬散布をする方が効率が良く、大きなメリットを感じた王さんは長年蓄積してきた人脈を活かし、これをビジネスにすると決めた。去年、XAIRCRAFTは最新型のドローンを購入した際に農薬の引換券がもらえるキャンペーンを行ったがその際に王さんは、農薬散布ドローン「XAIRCRAFT V40」をさらに2台購入した。
王さんは地元で農薬散布のイベントを開催し、大きな反響を得ることになる。その反響は村内に留まらず、近くの村の農業従事者までが王さんの顧客となった。ビジネスを拡大した王さんは多忙となり、手に負えない状況になったため、奥様の手をかりるまでとなった。2人は役割分担し王さんがドライバー、奥様が農薬の仕込みを担当。今では1日66ヘクタールの農薬散布作業ができ、作業費と受託費を合わせた売り上げは月80万円に到達した。夫婦は常に作業を共にしていることからも、夫婦仲が良くなるという副作用も発生しているようだ。農業用ドローン事業に挑戦した王さんは「今は田んぼがあれば、町から一歩出ずに収益を上げることができる」と話している。
XAIRCRAFTの計画と今後について
XAIRCRAFTは2021年内に3億円以上の予算をかけ、合計約1万回のセミナーを開き、全国で30万人規模相当の支援活動を行う予定だ。近い将来には同社が提供する新たなテクノロジーを活用した農業に関する知識や経営を知り、新たな農業を愛する”農業のプロフェショナル”が現れ、地域振興に貢献すると共に、農業が人気の職業となることを望んでいる。XAIRCRAFTは、今後もスマート農業のリーディングカンパニーとして農業を発展させることで、社会における役割を全うするよう努めていきたいとしている。